スクーターのベルト・ウエイトローラー交換の仕方です(アドレスV125Sの場合)。
アドレスV125Sのベルト・ウエイトローラー交換法はすでに色々なサイトで紹介されていてますが、あらためてこの記事で注意すべきポイントなどをより詳しく書いていきます。
交換工具(あれこれ初期費用1万円ほど)さえあれば難易度はそれほど高いものではありませんが、気をつけるポイントはいくつかあります。
これからベルト・ウエイトローラー交換をしてみようと言う人がこの記事を見て、自分でもできるかどうか判断してもらえればと思います。
V125Sベルト交換に必要な工具
これらをAmazonですべて揃えると最低でも8,500円ほどかかると思います。いい工具にするとさらにかかります。特にトルクレンチはいいもの買うとそれだけで1万円超えます。
- トルクレンチ(50N・mで締められるもの)。
- Y字型ユニバーサルプーリーホルダー。
- プラスドライバー(3番サイズ)。
- スピンナーハンドル(長いほうがいい)。
- T型スライドハンドル(またはラチェットハンドル)。
- エクステンションバー。
- ソケット(8mm=細く長いタイプ、10mm、17mm)。
- スパナ(12mm)。
※必要工具はあくまで一例です。
油脂類
- パーツクリーナー。
リチウムグリス、シリコングリス、モリブデングリスもあったら良いが、目的がドライブベルト交換だけなら必須ではない。
※トルクレンチはプーリーを締めている前後2箇所のナットで使います。他のボルト類でも使うのが理想ですが、そうなると小さなトルクにも対応した8-50N・mで締められるものが必要となります。ちなみにトルクレンチは下限トルク付近は制度が悪いので注意が必要です。
※トルクレンチ、スピンナーハンドル、エクステンションバー、角ソケットは差込角9.5mmで統一することをオススメします。
※8mmソケットは先が細長いディープソケットタイプでないとソケット幅がつっかえてボルトまで入らない場合があります。
※プラスドライバーは太い3番サイズを使います。一般的な2番サイズドライバーを使うと頭を舐めやすくなりますので注意。ドライバーでなくてもクロスビットソケットを使用してもOKです。
※12mmスパナはキックレバーを外すために使いますが、メガネレンチでもOK。またちょっとコツが要りますが、12mmソケットでもエクステンションバーやユニバーサルジョイントをつなげてラチェットハンドルで回すことは可能。
ベルト交換手順
キックレバーを外す
12mmのモンキー(あるいはメガネレンチ)を使ってキックレバーのボルトを緩め、キックレバーを引っこ抜きます。
締め付け時のトルク 13N・m
外す前にキックレバーの角度を覚えておきましょう。取り付ける時に角度で迷わないためです。
写真に撮っておくのもいいと思います。
エアクリーナーボックスを緩める
クランクケースアウターカバーを外す時にエアクリーナーのダクトが少し邪魔になるので、エアクリーナーボックスの下にある10mmボルトを2箇所外して、エアクリーナーボックスが少し上に持ち上がるようにします。
ボルトが奥まっているので工具はエクステンションバーで延長します。T型スライドハンドル(またはラチェットハンドル)にエクステンションバーを接続し、10mmソケットを使って緩めます。
エアクリーナーボックスカバーは外しません。ボックスを固定しているボルトを2箇所緩め、ボックスごと少し持ち上がるようにするだけです。
カバーを外す
緑の丸印2箇所をプラスドライバー(3番サイズ)で緩めてカバーを外します。
赤の丸印のボルトを8mmソケットで緩めます。エクステンションバーをT型スライドハンドル(またはラチェットハンドル)に接続し、8mmソケットを装着して使います。
赤丸 締め付け時のトルク 8N・m
クーリングダクトカバーの下にもボルト1個がありますので同じく8mmソケットで外します。この一本だけ長いボルトです。
締め付け時のトルク 8N・m
ここまで外したら、クランクケースアウターカバーが外れます。エアクリーナーボックスを少し持ち上げながらカバーを外します。
※プラスドライバーは3番です(頭がちょっと太いやつ)。緑の丸部分はやや固くしまっています。一般的な2番のプラスドライバーで外すとネジ頭をなめる危険性があります。3番が適正工具です。
※8mmボルトも固着している場合があります。瞬発力で一気に思い切り左に回して外します。
※緑の丸部分の受け側のネジ山はプラスチックです。プラスネジを締める時はきちんと垂直に入っているか特に注意してください。斜めにねじ込むとネジ山を簡単に壊します(斜めに入っている場合回すのがずっと重い)。最初にスルスルッと回らない場合はいったん緩めて垂直に刺し直してください。
クランクケースカバーを外す
次にクランクケースカバーを外します。
赤丸部分にある8mmボルトを緩めます。奥まっている部分もあるのでエクステンションバーをT型スライドハンドル(またはラチェットハンドル)に接続し、8mmソケットで緩めます。
ボルトを全部外したらアルミ製のクランクケースカバーを手前にひいて外しますが、古い車両だと固着して外れない場合があります。その場合はプラスチックハンマーなどで周囲を叩いてから手前にひいて外します。
締め付け時のトルク 10N・m
ノックピンが2箇所付いていますのでカバーが真下には落ちないようになっています。外した際にノックピンを落としてなくさないように。
クランクケースカバーはキックギアも内蔵していて少し重いです。
中央の8mmボルトは長細いタイプ(ディープソケットタイプ)の8mmソケットでないとソケットが引っかかって入らない場合もあります。
締め付け時は特にトルクレンチを使わなくても、T型スライドハンドルのハンドル中央を片手で握って力強く回せば回しすぎ防止になり、おおよそ適正トルクになります。
長いスピンナーハンドルやラチェット類を使うとオーバートルクでねじ切ってしまう危険性があるので注意してください。締め込み時に手ルクで使うなら小型サイズが安全。
ついでのメンテナンス
外したクランクケースカバー内にはキックギアがあります。グリスが切れるとキックレバーを使った時に戻らなくなることがあります。原因となる場所は赤丸部分のキックスタータードリブンとクリップの間の溝のグリス切れ。
グリスは赤丸部分(キックスタータードリブン)からクリップを外し、その溝にモリブデングリスを塗ってクリップを戻します。塗りにくい場合は綿棒か歯ブラシを使うといいと思います。
クリップを外すのが面倒な人は、クリップを少し浮かせてモリブデングリススプレーでさっとグリスアップする方法でもOK。
ただ、このグリスアップは必須作業ではありません。分解ついでのメンテナンスです。
プーリーを外す前に
カバーを開けたところです。
先程も書きましたが、緑の丸印はノックピンです。差し込んであるだけですので落としてなくさないように。
中央のガスケットが邪魔でベルトがとれないので、赤で囲った部分をハサミで切り取ると便利です。切り取ったものは捨ててOK。残ったガスケットはそのまま使いまわします。
ガスケットを交換する場合はガスケットをキレイに剥がさないといけません。張り付いている部分はマイナスドライバー等でガリガリやってきれいにして新しいガスケットを取り付けます。
ガスケットは千数百円しますので出来れば破かないようにケースを開けたいところです。リンク先の適合車種のL0というのがアドレスV125Sのことです。
プーリーを外すには以下のような特殊工具が必要となります。プーリーを固定する工具は数種類ありますが、V125Sは下のようなY字型ホルダーがおすすめです。
フロントプーリーを外す
さて、ではフロント側から外していきます。
緑で囲んだ部分にY字型ユニバーサルプーリーホルダーをセットし、プーリーが回らないように固定。赤く囲んだ部分は長めのスピンナーハンドルに17mmソケットを装着して外します。ハンドルが接触して回しにくい場合はエクステンションバーを使います。
かなり固くしまっているので、一気に瞬発力でガツンと反時計回りに回して緩めてください。ゆっくりやると舐めやすくなります。
赤丸 締め付け時のトルク 50N・m
締める時はトルクレンチを使ってゆっくり回してください。
ユニバーサルホルダーが手で抑えきれない場合は地面へ当てて固定します。
ナットが緩むとワッシャーなども一緒に取れますのでバラバラにならないようにまとめておいておきます。
プーリーフェイス部分を外したところです。
この奥にはウエイトローラーが格納されています。
リアプーリーを外す
フロント側と同じく緑で囲んだ部分にY字型ユニバーサルプーリーホルダーをセットし、プーリーが回らないように固定。
赤く囲んだ部分は長めのスピンナーハンドルに17mmソケットを装着して外します。ハンドルが接触する場合はエクステンションバーを使います。
赤丸 締め付け時のトルク 50N・m
ここもかなり固くしまっています。一気に瞬発力で反時計回しに回します。ゆっくりやるとネジ頭を痛めたり舐める危険性があります。
クラッチアウターを外すしました。あとはこのクラッチアッシごと引っこ抜けばベルトもくっついてシャフトからすっぽり取り外せます。固くて引っこ抜けない場合はガタガタ揺らしながら引けばそのうち外れます。
ベルトが全部外れました。あとは新品ベルトを入れるだけですが、奥のプーリーとボスを取り外してウエイトローラーの点検をします。
ウエイトローラーなど点検
ウエイトローラーの摩耗チェックをしましょう。
左の奥に入り込んだプーリー(中にウエイトローラーが入っている)とその中央シャフトにあるプーリーボス(輪っかのようなスペーサー)をシャフトから引き抜きます。
プーリーを外す時はそのまま引っ張るとウエイトローラーがバラバラになりますので、少しだけ手前に引いてから、指を奥に入れてランププレートを抑えながらゆっくり引き抜きます。
全部はずしたらクランクケース内にオイル漏れがないかチェックして、ベルト摩耗カスの汚れをパーツクリーナーで清掃し、ウエスで拭き取ります。
取り外したプーリーです。ローラーは向きがあるので中のローラーがバラバラにならないようにランププレートをそっと外します。
ウエイトローラーはV125Sには19gが6個入っています。ちなみに私は現在17g(V125GK5-K7のもの)を使用しています(加速アップ、燃費変わらず)。
たいした摩耗がなければ内部をパーツクリーナーで清掃してまた組み付けます。ローラーには前後の向きがあります。ローラーを外す場合は組み付けられていた向きで戻してください。モリブデングリスを薄く塗る人もいますが私は塗りません。
プーリーボスの方もパーツクリーナーで綺麗にします。私はプーリーボスにモリブデングリスを一回塗ってなじませるように綺麗に拭き取って組み付けますが塗らなくてもOKです。グリスを塗りすぎるとハミ出してベルトが滑りジャダーの原因になることもあります。
クラッチアウターカバーの内側のクラッチシューが当たる部分をパーツクリーナーで清掃しウエスで拭き取ります。ここは油分がつかないように注意です。
赤く囲んだ部分のクラッチシューの摩耗が進んでいないかチェック。十分残っているのでパーツクリーナーで清掃して綺麗にします。ここは油分がつかないように注意してください。
取り付け
ドライブシャフトにグリスが付いているので古いグリスをきれいに拭き取ったあとあらためて塗ります。
同時にドリブンフェイス内のニードルベアリングにも塗っておきます。これらのグリスアップは単に古いグリスを拭き取って塗り直しているだけで必須というわけではありません。古いグリスのまま組み付けてもいいですがついでのメンテナンスということです。
まずは先程外したプーリー(ウエイトローラーの入っているもの)とプーリーボスをクランクシャフトに差し込みます。ランププレートが開いてウエイトローラーが落ちないように注意して慎重に差し込みます。
プーリーのベルトが当たる面はパーツクリーナーでしっかり脱脂して取り付けます。手に油がついていると取り付け時に油がつくので私は手の方もパーツクリーナーで脱脂してます(※ただし正しい使い方ではない)。
ここで新しいベルトを取り出します。台湾純正ベルトと国内純正ベルトがありますが同じ三ツ星製のベルトでパーツ番号(27601-33G00)も同じです。どちらも使えます。
こちらが国内純正。国内純正ベルトはウェビックの純正部品コーナーからパーツ番号(27601-33G00)を入力し見積もりして購入可能です。Amazonだと国内純正のつもりが台湾純正が届いた、というレビューもあるので、やはり確実に買うにはバイク屋やウェビックがいいと思います。
国内純正は日本製です。
次に台湾純正です。同じ部品番号です。
下の商品はスズキ台湾純正の三ツ星ベルトですが、税込4,888円(Amazonリンクの2021年10月26日時点)と最近はあまり安くありません。スズキ国内純正が税込5,445円(2021年10月1日時点ウェビック見積もり価格)となっています。
台湾純正の価格的なメリットは最近はあまり無くなってきています。
次にクラッチ側のプーリーを両手の握力で開いてベルトを奥まで噛み込ませ、リアのドライブシャフトに差し込みます。これはベルトに余裕を持たせるためです。
ベルトは向きがありますので注意します。矢印が回転方向となるように取り付けます。
重要
この状態でプーリーをかぶせ、ワッシャ類とナットをさっと手で締め込みます。
次の工具を使います。
前後プーリーのナットだけはトルクレンチ必須です。17mmソケットを装着します。
赤丸 締め付け時のトルク 50N・m
後ろ側のプーリー&クラッチアッシへクラッチアウターをかぶせてナットを締め込みます。こちらもトルクレンチ必須。17mmソケットです。
赤丸 締め付け時のトルク 50N・m
締め込む時はゆっくり締めます。勢いはつけないこと。
このあとカバーを被せる前に、エンジンを掛け、動作確認をします。アイドリングだけでなく、アクセルを回してベルトが変速しているか確認してください。確認が済んだらエンジンを切ります。
あとは分解した逆の手順でカバーとキックを取り付けて終了。
アルミのクランクケースカバーをはめ込む際、2箇所のノックピンを落とさないように注意してください。ボルトは一旦仮止めを行ってから対角線上に本締めしていきます。
またクランクケースのガスケットが次回整備時に固着しないように、ガスケットにシリコングリスを塗っておくと便利です。
最後に
新品ベルト取り付け後は、接触面にまだアタリが付いていませんので全開加速などをするとベルトが滑ることがあります。そうなると滑り癖がついてなおらなくなることがあると昔読んだことがあります。
接触面にアタリをつけるために私は最初の50kmほどはゆっくりした加速で無理しないように走っています。慣らしはベルトの寿命にも影響するかもしれませんので一応のおまじないです。
ベルトの摩耗は非常に遅いため、完全にアタリをつけるには500km、1000kmとかかると思いますが、そこまで慣らしをやる必要は無いと思います。
自分で整備するメリットは、工賃節約だけでなく、気が済むまで丁寧に掃除ができるということ。またバイクの状態を直接見て知ることが出来る。より愛着が湧いて乗るのが楽しくなり、愛車を大事にするようになります。