最近コロナ陰謀論がなんだか話題になっているようです。
陰謀論というと1985年のJAL123便墜落事故までも陰謀論があります。
ワクチンのリスクに関しても、かなり過激な口調で「絶対に打ってはならない!」と言い放つツイートなど見られ、接種率に影響を与えてしまうことが懸念されます。
人は過度な恐怖や雰囲気に飲まれると正常な判断を失い、考えが染まることがあります。
例えばホラー映画を見たあとに現実世界でも同じことが起こる恐怖感が出てしまう現象。
例えば「◯◯は毒だ!危険!一切食べるな!」といった過激な言葉で主張する書籍などでも影響されます。
このような衝撃的な表現は心へのインパクトが強く、心理的に染まりやすい。
ではコロナの陰謀説の呪縛から開放できるように反論していきます。
コロナは人口削減計画?
「コロナは人口削減のために意図的に作られた生物兵器だ。」などといった旨の陰謀論。
日本のコロナ死者数は昨年1年間で1万人ほど。
厚生労働省の人口動態統計(速報)によれば2020年に死亡した累計は138万人。つまり死者数だけで見てもコロナが死者数に与える影響は死者数全体の1/138である。これを日本人口全体に与える影響だとさらにずっと低い。
厚生労働省の2019年の人口動態統計月報年計(概数)(この記事を書いている5月16日の段階ではまだ出ていないので2019年のデータになるが)によれば死因トップは悪性新生物(腫瘍)であり、37万6,392人。
コロナよりも悪性新生物(腫瘍)ほうがよっぽど影響が大きいが、悪性新生物(腫瘍)でも人口への影響は年間0.3%であり、人口削減というレベルではない。
では新型コロナが日本全体の人口にどれほど影響を与えるのかというと、新型コロナが日本全体の人口に与えた影響は年間0.008%程である。
これが人口削減の陰謀ならば効率が悪すぎではないでしょうか?
ワクチンは高齢者が人体実験にされている?
ユーチューブのライブのチャットで「ワクチン接種は高齢者を人体実験にしている。」というコメントを書き込む人を見けけることがありました。
まず人体実験の定義。
人体実験をまるでラットを使った毒物投与の反応を見るような非人道的実験のようにいうのは違う。国語的な意味では、人体実験とはヒトを対象とする研究のことであり、健康リスクは極めて低い研究であり、むやみに命を失わせるものではない。
世間一般では人体実験というと聞こえが悪いが、人体実験とは臨床試験などのこと。
臨床試験の目的は薬の有効性や安全性を確認するための最終試験となるが、一般人へ接種が始まったワクチンは、臨床試験を終えて承認申請をして認可されたワクチンである。
ワクチンはすでにアメリカで12月半ばから接種がはじまり5月14日の段階ではもう1億2000万人が2度の接種を終えている。
そもそも日本では高齢者より先に医療従事者からが接種している。高齢者はその次。高齢者が人体実験とされているなら医療従事者から打つのはおかしい。
ワクチン接種は命を無駄にするための接種ではないということ。
ワクチン接種後に実際に死者が出ている云々を持ち出して不安を煽る人もいる。しかしワクチン接種後の死亡例はワクチン接種が原因という結論には至っていない。それに接種後に死亡する確率はコロナの致死率より遥かに極めて低いものである。
持病や体調、アレルギーなどワクチンを打つべきではない人はあるので、医師に隠さずにちゃんと報告相談して接種すべきである。
これは他のインフルエンザワクチンなども同様。
コロナはただの風邪?
「コロナはただの風邪」といったコメントをユーチューブのニュースライブのコメントで必死に連投して拡散しようとしている人は今まで何度も見てきました。
コロナはただの風邪なのか?
厚生労働省によれば新型コロナはウイルス性の風邪の一種ということ。
ただし、勘違いしてはいけないことがあります。
ウイルス性の風邪と言ってもピンきりあります。季節性インフルエンザも風邪です。
一言に風邪と言ってもどういったウイルスに感染するかで症状や重篤化リスクも変わります。それが今流行しているSARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)であるということです。
風邪の中でも「ただの風邪」という表現ではライノウイルスなどが原因の普通感冒のことを指しますが、これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ではありません。
風邪は全部同じではないということ。どのウイルスかでリスクは異なる。ただの風邪とひとくくりにしている事自体、馬鹿げています。
ワクチン打ったら5年で死ぬ?殺人兵器?
「ワクチンを打ったら5年で死ぬ。」「ワクチンは殺人兵器。」という陰謀論。どっちもすさまじいインパクトのある表現です。
5年で死ぬというデマはおそらくアイルランドの教授ドロレス ケイヒル氏の発言の影響でしょうか?
彼女はコロナのmRNAワクチン接種で70歳以上は2–3年以内に、30代であれば5–10年以内に死ぬであろうと主張しました。
しかしその根拠となるものは示されていません。アネンバーグ公共政策センターのプロジェクトFactCheck.orgからの問い合わせにも応じていません。
ワクチンは殺されるための接種?
そのワクチンですが、アメリカのファイザー社のものが日本へ入ってきて接種が始まっています。
ツイッター上では「ファイザー社のワクチンは危険だから打ってはいけない。」「殺されるための接種だ。」「あまりにも危険!」と必死でツイートしているものがあります。
その根拠としてスペイン老人施設でファイザー社の接種を受けた78人全員がCOVID-19に感染し7人が死亡したというニュース記事が貼り付けられていました。下がそのリンク。
これはスプートニクというロシアの通信社が出した記事。
スプートニクは他にも「ファイザー社のワクチンが安全性データを隠蔽して他社ワクチンを攻撃か?」という陰謀論の記事を出している。
スプートニクは「語られないことを告げる」というスローガンがあるが、過去の記事にはいろいろ問題があり、フランス大統領選挙に関してフェイクニュースを拡散したと指摘されたり、ツイッターでコロナ対策で「手を洗うのは役に立たない。」とツイートしたり、COVID-19の偽情報を流したと指摘されている。
スプートニクはスプートニクVワクチンと競合する新型コロナワクチンの偽情報(ファイザー社のワクチンは信頼性が低く危険性が高いなど)を流し、自国製ワクチンの売り込みに利用しているということが米国当局者によって指摘された。
ちなみにこのスペイン老人施設の真相をスペイン地元メディアのサイトをいくつか見回って調べてみると、78人全員がCOVID-19に感染し7人が死亡したのは事実のようです。
ただしワクチンは1回しか接種しておらず、2回目のワクチン接種前だったということ。ちなみにファイザーのワクチンは2回接種しないといけない。ワクチンの接種で十分な免疫ができるのは、2回目の接種を受けてから7日程度経って以降。
つまり接種は完了しておらず十分な免疫ができていない状態だった。
死亡した7人はワクチン副反応が原因ではなくコロナ。
ロシアのスプートニクの記事では、「接種から6日後、接種された全員に副反応が出た」と書いてあるが、スペインの地元メディアではどのメディア記事を見ても「6日後10人にワクチン投与の副反応が出たと総局が説明した」と書いてあり、両者に食い違いがある。
ここまでで言える結論は、ファイザー社のワクチンを打ったことが原因で78人が感染し7人が死亡したのではない。ということ。
厚生労働省ではファイザー社のワクチン投与で頭痛、関節や筋肉の痛みや発熱などの副反応はあり、また新しい種類のワクチンなので予期せぬ症状が出ることがあるかもしれないと回答。
ただ、副反応と言ってもそもそもどのようなワクチンでも副反応のリスクはある。これはインフルエンザワクチンも例外ではない。
新型コロナワクチンは、新しいワクチンゆえに予期せぬ副反応が出たり長期的にどうなるのか安全を確証できない部分はある。ただしアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は長期的な悪影響は稀だと説明している。
そもそもmRNAワクチンは常温では不安定であり接種後短期間で体から消えて、残るのは免疫反応だけなので長期的なリスクは殆どないというのが多くの専門家の見解。
CDCによればmRNAワクチンは新しいものだが、mRNAワクチンは何十年も研究されてきたもので未知ではないということ。
もしも5年以内に死ぬのなら、アメリカは2021年5月14日の段階で人口3億3,000万人のうち、すでに1億2,000万人が2回の接種を終えているので5年以内に人口の4割である1億2,000万人が死ぬということになる。
アメリカはほぼ全国民にワクチンを打つつもりなので、ワクチン接種で5年以内に死ぬならば、5年後アメリカ人は地球上からいなくなることになるが、陰謀論者は本気でそう考えているのだろうか。
病院が接種者を拒んでいるので危険?
病院によってはその病院の方針によりワクチン接種者の立ち入りを拒む病院があるとのツイートを発見。
ワクチン接種者の飛沫のリスク、またワクチン接種後の死亡例の不安を言っているようです。
貼り紙にあるファイザー製薬公式文書(PF-07302048 (BNT162 RNA-Based COVID-19 Vaccines) Protocol C4591001)というのはこれ。
厚生労働省の報告書によればワクチン接種後死亡の28事例(5月2日までの事例だが)すべてにおいて、情報不足等によりワクチンと症状名との因果関係が評価できないという結果。
これをみると死亡例の多くは基礎疾患持ちというのが分かります。厚生労働省では予防接種を受けることができない人、注意が必要な人の例を挙げ、該当する人に必ず接種前の診察時に医師へ伝えるよう呼びかけています。
陰謀論者はこの報告を「事実を隠している。」「公表していない。」というならその根拠となる明確な証拠を示してください。たぶん・・だろう・・など、憶測だけで陰謀論を語っては駄目です。
そもそも接種回数が数百万回の中の数十例。このワクチン接種した年齢層の数百万人という区切りで見ても、そもそもワクチンを打たなくてもこれよりずっと多い人数が日常的に病気などで死亡しているので、そもそもワクチンが原因かというのは難しい。
ワクチン接種者がウイルスを飛沫する問題については日本のメディアでも取りあげられました。これは重症化は抑えられるが、感染力が低下する根拠はなく、接種者がマスク着用などをやめた場合に感染を広めるリスクがあるというもの。
しかしワクチンにとってこれは珍しいことではない。例えばインフルエンザワクチンがそうである。厚労省のインフルエンザQ&Aによれば、インフルエンザワクチンは感染を完全に抑える働きはない。発病を低減させ重症化を防止するのに有効と書いてある。
厚労省では他の方への感染をどの程度予防できるかはわかっていないとしてワクチン接種後も感染予防対策の継続を呼びかけている。
感染予防効果についてはイギリスの保健省がファイザー、アストラゼナカワクチン接種で感染予防効果が38-49%あったと4月28日に公表した。
ただし、まだ感染予防効果が世界的に認められたわけではない。さらなるデータが必要。
ワクチン接種者が変異体を生産する?
また、ワクチン接種者はウイルス変異体を生産して広げていくから危険!絶対にうつな!といったようなブログやツイートなどの投稿もある。
ワクチン接種者も新型コロナ感染をすることがあるが、ワクチン接種者が感染し、そこでコロナが変異する可能性はある。しかしワクチンを接種することが原因で変異を誘発するとする十分な科学的根拠はない。
複数の専門家は、ワクチン1回目と2回目の間に感染した場合、ウイルスの変異を早める可能性があるのではないかと懸念している。これは一回目の接種後の弱い免疫状態とき感染すると、弱い免疫反応を逃れたウイルスが突然変異を起こすということ。
弱い免疫がコロナウイルスを進化させるというケーススタディが下にある。
これはワクチンとは関係なく、弱い免疫の話。
国立アレルギー感染症研究所所長アンソニー・ファウチが「2回目の接種を遅らせると変異が広がる危険性がある」と述べたが、ワクチン1回目の接種後にコロナウイルスの突然変異を誘発させたという科学的データはない。あくまでも仮説。
この誘発する可能性とは1回目と2回目の間(免疫が弱い時期)に感染した場合であり、2回の接種を終え免疫が十分確保できたあとの話ではない。
2回の接種を終え、免疫がしっかり確保されれば、ほとんど心配のないリスク。むしろ非接種者が変異を招くリスクのほうが遥かに大きいと言える。
ワクチン接種によって感染者が増加
「ワクチンは感染を広げる起爆剤だ!」などとネットで書き込む人がいる。
ワクチン接種開始から感染者や死者が増えたとグラフで示しているツイートも発見。
しかしワクチンを投与していない人もすべて含んだ全体の新規感染者のグラフで、ワクチン接種率自体きわめ低いのが現状であり、ワクチン接種との相関性の根拠にはならない。
ワクチンは2回接種が必要であり、1回目の接種から3週間あけて2回目の接種を行い、十分な免疫ができるのはその7日後とされています。つまり十分な免疫ができるのは接種開始から一ヶ月ほどかかる。よってワクチン接種開始から感染者グラフを照らし合わせても全く意味がない。
「接種が多い地域で感染者増」というグラフ提示に関しても、ワクチン接種が多いのは東京や大阪の都会だが、そもそも都会とその周辺から感染が増えていく傾向は以前からあるのでワクチン接種との相関性にはならない。
また先程書いたように、十分な免疫ができるのは接種開始から一ヶ月ほど。また、厚労省によれば、新型コロナ感染から発症までの潜伏期間は1日から12.5日(多くは5日から6日)ということ。
ワクチンを打ってはならないと主張するそれらのツイートは、そもそも接種開始と感染者の増減には1ヶ月ほどのラグが生じるにもかかわらず、同じタイミングで増減を比べて相関性を語っていること自体、見方が間違っている。
Our World In Dataによれば、アメリカは1回のワクチン接種が人口の48%、必要回数のワクチン接種が人口の38%となっている(2021年5月18日データ)。
アメリカでは今年の2020年12月半ばからワクチン接種が始まり、1月半ば辺りまでの約1ヶ月ほど感染者数は増え続け、1月のピーク時に1日25万人の新規感染者となっていたが、そこから一気に激減し、2021年5月15日の時点では新規感染者が2万9,000人と激減している。
同じくOur World In Dataのデータでは、イギリスは1回のワクチン接種が人口の54%、必要回数のワクチン接種は30%(2021年5月17日データ)。
そのイギリスでも新規感染は1月にピーク6万人に対し、その後ぐんぐん減り始め、5月17日で1,900人まで激減している。ワクチン接種率世界一のイスラエルも同様の傾向。
これらがワクチン接種によって減ったのかはわからないが、ワクチン接種によって感染者が増えているとツイートしている個人ツイッターの主張とは逆の結果である。
ちなみに日本はワクチン接種率が2021年5月18日の時点で1回接種が人口の3.9%、必要回数が1.7%(Our World In Dataより)とほとんど進んでいない。これだけ少ないと新規感染の変動はワクチン接種との影響を推察することは出来ない。
最後に念を押さなければならないことは、ワクチンを接種しても新型コロナに感染することはあるということ。
Q ワクチン接種後に新型コロナウイルスに感染することはありますか?
A ワクチン接種後でも新型コロナウイルスに感染することはあります。また、ワクチンを接種して免疫がつくまでに1~2週間かかり、免疫がついても発症予防効果は100%ではありません。
出典:新型コロナワクチンQ&A 厚生労働省
新型コロナワクチンは感染予防ではなく、発症、重症化や死亡リスクを予防するためのものです。
さいごに
陰謀論を唱える人は、ネット上で必死に連投して拡散しようとする行動がでる。
ニュース動画のチャットでも、動画の内容と関係なく何の脈絡もなしに陰謀やデマのネタをひたすら延々と連投する特徴があります。
陰謀論ではインパクトのある表現(絶対!危険!殺人!など)を多用する。これらは十分な科学的根拠がないにも関わらず自信たっぷりにバッサリと言い切るので人は信じ込みやすくなる。
例えば厚労省などは情報には慎重であり、きちんとした根拠があるものは「~である」といい切るが、科学的によくわかっていない部分は断言することはなく「まだよくわかっていない」と伝える。
しかし陰謀論の場合は不確定な要素であってもすべてきっぱり断言して確立した情報として広めようとする。
陰謀論の場合、示す根拠は信頼できないソース元であったり、都合の良い論文データ(※論文はすべて信頼性があるわけではない)だけを収集したり、未発表の論文データを用いたり、データを都合のいいように解釈して確立された情報のように堂々と言い放ってくる。
また、現時点でコロナについて科学的に確証できていない部分がある場合、憶測だけで陰謀論を作り上げてしまう。こういった憶測を悪い方向でズバっと言い放つと人々は信じ込みやすい。
新型コロナやワクチンの情報が未解明なものも多く、あちこちで錯綜、交錯しているだけに人々は不安が大きい。デマや陰謀論はいいようにここを突いてくる。
ワクチン接種が進まずワクチン接種率が極めて低い日本。間違った情報や偏った情報で不安を煽られワクチン接種を拒む人が増えれば、助かる命が失われることになり、経済回復にも悪影響を与えることになります。