9月13日にNEWポストセブンが韓国食品の危険性を煽った記事で、SNSやヤフコメが騒がしくなった。
こういった特集があると、どうしても韓国を嫌う人たちが騒ぎ出し、感情論のコメントであふれるのは恒例。またそうでない一般の人も目の前に差し出された事例だけに振り回され、全体を見た判断ができなくなることもよくある。
フードファディズムがいい例だ。
しかし危険というのは韓国食品に大きなリスクがあることなのか?他の国からの輸入品は?違反率は?国産は安全?
統計データから世界各国の輸入食品を見ていく。
厚労省の統計で見ていく
NEWポストセブンの記事はかなり韓国食品を煽った記事。週刊誌では発行部数を伸ばすために過剰な表現やデータの引用を偏らせてインパクトを与えるのはよくある手法。これは書籍でも同じ。
最近の韓国輸入食品のみの違反事例をすべてあげて、いかにも多いように伝えている。
他の国の輸入食品の違反事例については触れていない。記事は全て読んだが、輸入食品の中で韓国食品が特に大きなリスクがあるというような趣旨が伝わった。
韓国食品だから危険なのか、厚生労働省の輸入食品監視統計で他の国の輸入食品と比較してみる。
2019年度の届出件数は254万4,674件で、違反件数は763件。届出件数に対する違反率は0.03%。検査件数に対する違反は0.35%。
2019年度の輸入届け出件数トップ5
国 | 届け出件数 |
---|---|
中国 | 842,228件 |
アメリカ | 225,458件 |
フランス | 218,430件 |
タイ | 168,450件 |
韓国 | 127,188件 |
日本への輸入食品は圧倒的に中国からの輸入届出件数が多いことがわかる。韓国は5位でかなり上位。
2019年度の違反件数トップ5
国 | 違反件数 |
---|---|
中国 | 185件 |
アメリカ | 136件 |
ベトナム | 58件 |
インド | 45件 |
タイ 台湾 | 37件 |
違反件数は中国がトップだが、中国は届出件数が圧倒的に多いので違反率そのものはそれほど高くはない(あとで比較表を作る)。ちなみに韓国食品の違反は13件である。ただし、国によって検査件数が異なるのでこれも単純比較はできない。
よって「主要輸入国の2019年度の違反件数を検査件数で割った違反率の表」を下に作る。
国 | 届け出件数 | 検査件数 | 違反件数 | 違反率 |
---|---|---|---|---|
イギリス | 33,339件 | 1,992件 | 27件 | 1.36% |
インド | 21,869件 | 3,461件 | 45件 | 1.30% |
ガーナ | 826件 | 535件 | 6件 | 1.12% |
アメリカ | 225,458件 | 17,915件 | 136件 | 0.76% |
台湾 | 39,752件 | 4,967件 | 37件 | 0.74% |
ブラジル | 30,766件 | 1,590件 | 11件 | 0.69% |
イタリア | 124,259件 | 8,749件 | 32件 | 0.37% |
タイ | 168,450件 | 11,423件 | 37件 | 0.32% |
ベトナム | 94,534件 | 20,288件 | 58件 | 0.29% |
中国 | 842,228件 | 80,102件 | 185件 | 0.23% |
韓国 | 127,188件 | 6,235件 | 13件 | 0.21% |
ドイツ | 44,228件 | 2,875件 | 4件 | 0.14% |
フランス | 218,430件 | 11,353件 | 14件 | 0.12% |
輸入合計 | 2,544,674件 | 217,216件 | 763件 | 0.35% |
※これは違反率の上位のランキングではない。届け出の多い主な輸入国を私が適当にピックアップした。ガーナは少ないのに入れたのは、違反率が異様に高かったので。違反ゼロの国も多くあるが、届け出数、検査数が少ないなど、比較は難しい。
こう見ると韓国の違反率は輸入合計より低いことが分かった。中国も週刊誌などで危ないと言われるが輸入品目がぶっちぎりで多いだけで違反率そのものは低い。
週刊誌がなぜ韓国食品が危ないと記事にするのか理解に苦しむ結果。
飲食店は韓国食品での食中毒が多いの?
飲食店の食中毒に関しては日本では日常茶飯事。すべてが全国ニュースになるわけではない。
NEWポストセブンの記事では、2014年に東京都内の和食店で韓国産のヒラメの刺身を食べ寄生虫で食中毒を例にあげ韓国産は危ないと主張。
食品安全委員会の季刊誌によれば、クドア食中毒は輸入物ヒラメが多いが、ヒラメは国内産天然ヒラメ・国内産養殖ヒラメでもクドア食中毒がないわけではない。養殖ヒラメの殆どは韓国産である。国産と韓国産を比べると国産のほうが食中毒は少ない。
ヒラメに関しては国産と比べると韓国産のほうがリスクは高いのが現状。
ただそれで韓国産が他の国より危ないという全体の傾向となるわけではない。なぜなら養殖ヒラメはほとんどが韓国産。つまり日本へ養殖ヒラメを輸出していない他の国はヒラメで違反することができない。
海産物全体の違反を見ても韓国独占という傾向はない。大腸菌群の違反でも韓国固有ではない。アジアや欧州など他の国でも違反は多く見つかる。輸入食品の違反事例の一覧を見れば見るほどポストセブンがなぜ韓国ばかりを取り上げたのかわからない。
また、飲食店の食中毒はヒラメ以外にも多く発生している。統計で見れば刺し身の食中毒は圧倒的にアニサキスが多く、実は危険なのはこちらの方だ。アニサキスは国産でも多く検出される。ただ、輸入の場合でも冷凍なら死滅するので心配はない。
検査システムが甘いから韓国食品が危ない?
厚労省によれば令和元年度における食品等の検査は届出件数の8.5%である。NEWポストセブンの記事は、検査が甘いから韓国産が流通して危ないという。しかし検査率は韓国と関係はない。
食品に残る食品添加物や残留農薬についても一日摂取許容量(ADI)というものがあります。毎日生涯食べ続けても影響がでないと考えられる量がADIです。
これを超えたら危険なのか?
いいえ違います。
これはあくまで基準。ADIの基準は、無毒性量をさらに100分の1にした数値です。つまり基準の5倍10倍だったから、それを食べたから、だから影響が出る、というわけではありません。
つまり、違反した食品を食べてしまったとしても、過剰な心配は不要です。
まとめと意見
- 韓国の輸入品の違反率は0.21%で、輸入品目世界全体合計の平均0.35%を下回っている。
- 検査システムの穴の懸念に関しては韓国輸入品特有のことではない。他の国からの輸入品でも同じである。
- 添加物や残留農薬がADI値を超えたからといって健康に影響が出るというわけではない。ADIは100倍のマージンがある。
以上から、韓国食品は危険、リスクが高いというのは誤りである。
他の国の違反事例を1つもあげず、韓国だけの違反事例を並べ、韓国食品が危険だとするNEWポストセブンの記事は、情報の出し方に偏りがあります。
輸入品が心配な人は下の資料を読むといいです。輸入品も国産品も違反率は同じことが分かります。国産だから輸入より安全という傾向は無いです(品目によっては差が出るが全体の傾向としてはないということ)。
週刊誌は心理的なインパクトを利用するが、偏りなくきちんと全体を見て数学的に現実を知ることが大切です。輸入品を買う買わない、食べる食べない、それは個人の自由です。
ただ、偏ったデータの出し方で人の心理を利用して不安を煽り、生活に影響を与えかねない週刊誌の記事の書き方は好ましくありません。
韓国からの輸入食品に違反事例はたしかにあります。ポストセブンが出している情報は誤りではない。しかしそれは情報の出し方に偏りがあり、公平ではない。
韓国食品が他の国の輸入食品と比べ、特に違反リスクが高いという傾向はありません。検査数から違反率を見れば、違反率は日本への輸入食品検査数全体の平均違反率より低くなっています。