SNSやユーチューブのチャットで「PCR検査はコロナとインフルを混同する。無意味。」などとひたすら連投して拡散しようとする人がいます。
その記事のソースがツイッターに貼ってありましたが信頼おけるメディアではなく、「Total News World」という運営元不明のニュースサイトだったり、その他誤情報を拡散しているサイトであったりする。
PCR検査はコロナとインフルを混同する、PCR検査は診断に使ってはいけない、など拡散されるSNSなどの情報を検証します。
厚労省が認めた?
ツイッターには「PCR検査は風邪もインフルエンザも陽性になるのを認めている」というツイート。
そのソースには、厚労省のコロナコールセンターに電話したとする人のツイートがある。コールセンターがPCR検査はインフルや風邪も陽性になる。コロナだけを検質(検査の誤字かな)しているわけではないと言ったと。
ただこれは録音など直接的なソースではなく、個人が書いたツイートの文章に過ぎず信憑性が不十分。
ソース元が誤情報サイト
PCR検査で陽性が出る反応のウイルスの一覧が書いてあり、その主張するソース元にURLがありました。
このURLはANTENNA blog NBB というサイト。コロナに関してみると、「コロナは政府の嘘、インフルエンザだった」というような記事で溢れていて何やらすごいサイトだ。
PCRの考案者はキャリー・マリス氏で、彼は2019年8月7日に亡くなっているが、この点についてANTENNA blog NBB の記事ではキャリー・マリス氏が「PCRを検査で使うな」と言ったら謎の死を遂げたと述べている。
しかしこれは謎でもなく彼の死因は肺炎。74歳だった。
キャリー・マリスがPCR検査を否定した?
先程のツイートに、キャリー・マリスは「PCR検査を感染症の検査に使うべきではない」、と語っていたという旨が書いてあり、一部の海外サイトでもそういう噂が広まっています。
キャリー・マリスはHIVはエイズの原因ではないと主張した人ですが、そのキャリー・マリスを支持する Rethinking AIDS というエイズ否認主義のウェブサイトに、HIVとエイズに関する1996年の記事があります。
ここにキャリー・マリスの引用 “Quantitative PCR is an oxymoron.“( 定量的PCRは矛盾している。)があります。
私は実際にユーチューブ上でキャリー・マリス氏の3分56秒間の動画を見ましたが、これはPCR検査の誤判定を懸念したもの。
(※動画はキャプチャーっぽく、著作権の問題があるためここに埋め込みは出来ませんのでKaryMullisで検索してください)
つまり適正な検査を行わなければ、矛盾した結果が出てしまうということ。
そのため厚労省は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針 第4版で ” 各種検査法の検出感度や非特異反応を把握し、それぞれの検査法が持つ特徴を理解することが、適切な判定を行う上で重要である。” と記載している。
PCR検査の誤判定を減らすために、厚労省では新型コロナウイルス感染症の PCR 検査等における精度管理マニュアルを作成している。
状況に応じた適切な検査実施が必要ではあるが、厚労省の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針 第4版には ” 現時点では、SARS-CoV-2 の検出に最も信頼性の高い検査はリアルタイム RTーPCR 検査である。 ” と記載。
PCR検査は診断の根拠にできない?
さきほどのサイトにはツイッターのツイートが埋め込まれていた。
でもこれ2020年7月のツイートだ。
こちらのツイートもまた個人ブログをソースにしている。脳外科専門医のようだがPCRに携わる専門家ではない。
ではそのブログを確認してみます。
その個人ブログの記事は2020年4月のものでした。
” PCRで陽性でも、新型コロナウイルス感染症と診断してはいけない ” と熱弁しています。
ですが実際はPCR検査のみを持って感染症という診断にはされていません。
PCR検査又は抗原検査の結果に基づいて医師が評価を行い、新型コロナ感染症と診断した場合に、感染症法に基づいて医師が届出をします。つまりPCRで陽性が出たからといって100%感染症と診断されるわけではないのです。
新型コロナウイルス感染症は、診断した医師が、症状やPCR検査などの検査結果を基に総合的に判断し、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づき届出がされます。PCR検査での陽性のみをもって感染者とはいたしません。
出典: ご提言等の内容(新型コロナの陽性判定を行うPCR検査について)香川県健康福祉部薬務感染症対策課
さらにそのブログで creative diagnostics の「SARS-CoV-2 Coronavirus Multiplex RT-qPCR Kit」という検査キットの説明書をソースにしていた。そこに「新型コロナウイルス感染症と診断や治療の根拠としてはいけない」と書いてあるというのです。
しかしその「SARS-CoV-2 Coronavirus Multiplex RT-qPCR Kit」は厚労省の新型コロナウイルス感染症の体外診断用医薬品(検査キット)として承認されていません。
承認されたものは以下の厚労省のウェブサイトで確認できます。
「SARS-CoV-2 Coronavirus Multiplex RT-qPCR Kit」の説明書を見てみます。
This product is intended for the detection of 2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV). The detection result of this product is only for clinical reference, and it should not be used as the only evidence for clinical diagnosis and treatment.
source : SARS-CoV-2 Coronavirus Multiplex RT-qPCR Kit (CD019RT) creative-diagnostics
これを訳すと、この製品は、2019-Novel Coronavirus(2019-nCoV)の検出を目的としています。この製品の結果は臨床参照用であり、臨床診断および治療のための唯一の証拠として使用されるべきではありません。ということです。
これは研究目的用のPCR検査キットです。だから承認されていません。あたりまえです。
研究目的用のPCR検査キットの説明書に「診断に使用されるべきではない」と書いてあるから、PCR検査は診断に使用されるべきではないというのは無理があります。
診断用には診断に承認されたPCR検査キットがあります。
私達の検査に使用されているPCR検査キットは研究目的用のキットではなく、診断用に承認されたキットだけです。
PCR検査はコロナとインフルを混同するのか?
PCR検査はコロナとインフルエンザの区別が出来ない、などとSNSで書き込む人がいます。これは海外でも見られます。
ですがこれは間違いです。
おそらくこれは「CDC(疾病管理予防センター)がコロナウイルスとインフルエンザウイルスを区別できないため、PCR検査の使用を停止すると主張した」というデマによるものだと思われます。
しかしCDCはPCR検査を停止していません。SARSCoV-2とインフルエンザウイルスの検出を同時にすることができるマルチプレックスPCRを取り入れていくということです。これもPCR検査です。
SARS-CoV-2のPCR検査は、SARS-CoV-2ウイルスにのみ見られる核酸の存在を探すためのものです。インフルエンザウイルスは混同しません。
厚労省の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針 第4版には、インフルエンザ流行時にコロナPCR検査をする場合、インフルエンザと鑑別が必要になる旨が書かれていますがこれを誤解しないようにしないといけません。
これはPCR検査で検出されたものが混同するからという意味ではありません。
それはSARS-CoV-2のPCRキットでインフルエンザを拾って混同してしまうからではなく、有症状患者がPCR検査で陰性だった場合、その症状はインフルエンザ感染が原因である可能性も考えなければならないという意味です。
説明書にインフルなども検出すると書いてある?
先程の 脳外科専門医のブログには、「PCR検査キットの説明書にインフルなども検出すると書いてある」と主張していましたが、そのソース元の Multiplex RT-qPCR Kit の説明書なんですが、
Multiplex RT-qPCR Kitの説明書のSpecificity にはインフルエンザA型B型、マイコプラズマなど列挙されていますが、これはインフルエンザなどを混同して検出するという意味ではありません。
そしてこのキットは Multiplex RT-qPCR Kit です。マルチプレックスです。つまりこれは2種類以上の遺伝子配列を同時に検出するものです。
ちんなみにCDCは既存のPCR検査からマルチプレックスPCRを取り入れていくということを発表しています。
まとめ
SNSのデマに使われる出典元が、ただの聞いた話を個人がツイートしたものだったり、誤情報ニュースサイトだったりしないかきちんと確認してください。それらが示す出典元のサイト名をwikiなどで検索し、そのサイトがどういうサイトであるか調べてください。
CDCなど信頼おける機関からの出典が示されていて、ツイートした人による日本語訳が誤訳していることがあります。実際にサイトに行き「素の情報」で確認してください。信頼おける出典元サイトでは一部分の抜粋で判断せず全体を確認してください。
長い記事でしたのでまとめます。
彼はPCR検査の誤判定を懸念していた。日本では誤判定を減らすために厚労省が精度管理マニュアルを作成している。 厚労省では、現時点でSARS-CoV-2 の検出に最も信頼性の高い検査はリアルタイム RTーPCR 検査であるとしている。
SARS-CoV-2のPCR検査は、SARS-CoV-2ウイルスにのみ見られる核酸の存在を探すためのものです。インフルエンザウイルスは混同しません。 私達は厚労省で診断用に承認されたSARS-CoV-2のPCR検査キットを使用しています。
それはマルチプレックスPCRです。同時にいろいろなウイルスを検出できるキットです。一緒くたに混同するという説明ではありません。
それは研究目的のためのPCR検査キットで厚労省では承認されていないものです。私達の検査に使用されているPCR検査キットは、厚労省が承認した診断用のPCR検査キットが使われています。
※記事修正について。
表現に誤りがありましたので訂正しました(2021年9月11日)
私達が診断で使用しているPCR検査キットは、
↓
私達の検査に使用されているPCR検査キットは