ネットを回っていると広告で磁気ネックレスが出てきました。ネックレスを首からかけると磁気で血行をよくする効果があると謳っています。
この効果は厚労省で認められているというものの、直感的に懐疑的になったので世界の専門機関ではどう見られているのか調べてみることにしました。
磁気ネックレスとその効果とは?
磁気ネックレスは筋肉のコリを解消し、血行をよくすると商品メーカーは謳います。
磁気が筋肉をほぐし、血液中の鉄分に磁気が反応し血行が良くなるということらしい。また血管を拡張させて血流が良くなるらしい。
厚労省が認めた?
よく販売者が厚労省から医療機器として認めているから信頼できるよといった言い回しがされています。
調べるとたしかに家庭用永久磁石磁気治療器として認められています。
JIS T 2007:2018「家庭用永久 磁石磁気治療器」
装着部位のこり及び血行の改善。一般家庭で使用すること。
出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二十三条の二の二十三第一項の規定により厚生労働大臣が基準を定めて指定する医療機器 三百五十六 家庭用永久磁石磁気治療器
厚労省が効果(装着部位のコリと血行の改善)、安全性を認めたものです。
装着部位ということに注意すべきですが、装着部位のコリはいいとしても、血行も全身ではなく、装着部位の血行が改善ということ。ネックレスで首全体を包むならともかく、首にかけた輪っか状の部分にこりの場所が当たるとは限らず、意味があるのか不明。
科学的根拠はあるのか
まず、私はいままで多くの記事でさんざん書いてきましたが、論文というのはたった1つや2つだけで科学的根拠が確立するものではありません。
同じ研究論文でも結果が異なることは日常です。論文は間違いや捏造・不正も多く、その質が問われます。出資者や研究者に透明性はあるか?規模は?再現性はあるか?
科学的根拠を決めるためにはこれら論文を偏りなくたくさん集め、多くの専門家でそれらを一つ一つ評価し、そして結論を出します。質の高い論文が少ないときは結論が出ないときもあります。
一方で、商品を販売するメーカーのウェブサイトでは効果があったとする論文だけを載せます。しかしその研究は第三者のみで行われたものではなく、出資者がメーカーだったり、研究者にメーカーの社員が含まれていることがほとんどで透明性が低いです。
磁気ネックレスも例外ではありません。静的磁石が肩こりや血行に効果があったとする論文もあり、静的磁石は血行に影響しなかったとする論文もあります。
肩こりや血流に有効だったとする研究
製品メーカーの関係者が関与していない研究ソースだと、
血流に影響しなかった研究
痛み軽減に関しては否定されている
フランスの健康安全保障機関の1つであるANSMでは治療用磁気ジュエリーに病状が改善する用語を使うことを禁止する通達を出しています。ただ、この病状の中に肩こりや血行は含まれていないようです。
アメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)では静的磁石を使用する磁気ネックレスなどのあらゆる痛みに対しての改善効果を認めていません。ただ、片頭痛治療の目的で使用される経頭蓋磁気刺激 (TMS)に関しては効果を認めています。
経頭蓋磁気刺激 (TMS)とは片頭痛の治療目的で強力な電磁石を使ってやる治療。TMSは厚労省でも承認しています。TMSは市販の静的磁石を使用した微弱な磁気ネックレスとは関係ありません。
海外の磁気ジュエリー販売業者は「米国食品医薬品局(FDA)が片頭痛を治療する磁気治療器を承認している」とサイトに載せて磁気ネックレスの効果が信頼できるものであると主張していますが、これは経頭蓋磁気刺激 (TMS)のことで、静的磁石を使用する磁気ネックレスのことではありません。
磁気による痛み軽減の効果については、アメリカがん協会(ACS)もアメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)も認めていません。米国食品医薬品局(FDA)では医療効果を主張した磁気治療製品の商品販売は認めていません。
ドイツの中央健保組合の医療サービス(MDS)も静的磁石の効果は不明としています。
血流に関して信憑性はどうなのか?
科学的メカニズムもよくわからない部分があります。静的磁石を使用した磁気ネックレスの磁場は弱すぎること。さらに血液中の鉄は酸化鉄であり、強磁性ではないため、血流改善効果は期待できない。
磁石は血液を吸い寄せない証拠動画です。極めて強力な磁石を使った実験ですが、血液は弱い反磁性があり、磁石から離れていきます。
ヘモグロビン云々という理論はほぼ否定できると思います。
ただ、血管拡張効果については、有効だった研究とそうではなかった研究を評価してシステマティックレビューを出すことは私には出来ません。血管拡張について政府の専門機関がどういう見解なのかは出てきませんでした。
しかしながら、ネックレス装着部位の血流が上がったとしても、ピップエレキバンのように、患部の正確な位置に磁石を当てないと意味がないのではないかという疑問があります。ネックレスは位置を調節することは出来ません。
結論
多くの磁気ジュエリー販売サイトで「厚労省が認めた」との謳い文句が使われていますが、これは「装着部位のこり及び血行の改善」ということです。厚労省が認めているにも関わらず、「こり改善に有効だった」とする論文で商品メーカー関係者が関与していないものが発見できず、血行に関しても科学的根拠の確実性はいまいちすっきりしないものでした。
もし、プラシーボでも効果が出ればいいじゃないかという人もいるかもしれませんが、それを言ってしまうとこの記事の意味がなくなってしまいます。
また、首や肩こりに関しては原因は様々で、血流の悪さが原因とは限りません。姿勢や目の疲労やストレスなども影響します。血流の悪さが原因でなかった場合、根本的な原因を解消しない限り、磁気ネックレスを使用しても、こり解消の解決にはならないでしょう。