「卵は何個食べてもいいんです!」
このような言葉を数年前から見かけます。
ことの発端は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準値(2015年度版)」でコレステロールの摂取基準がなくなったこと。
それ以来、個人ブログやネット上の掲示板で、卵1日1個まで説は古い。コレステロールが体に悪いのは昔の話。卵はいくら食べてもいい。などの書き込みを見るようになりました。
昔は世間一般的には卵を1日1個までにするべきという傾向はありました。
鶏卵のコレステロール値は生卵の場合、大きさによりますが1個あたり250–300mgです。これは日本人のコレステロール摂取量のほぼ中央値です。卵の影響はとても大きい。
ちなみにコレステロールは体内で合成出来るので必須栄養素ではありません。体にはコレステロールが必要ですが、これが少なくなると合成量も増えるのです。
コレステロールに上限が存在しないわけではない
厚労省は5年毎に専門家を集め、国内や海外から集めた数十以上の研究から総合的に判断し日本人の食事摂取基準を再評価します。
いつも言えることですが、ネット上ではたった一つの新しい研究を例に上げ、自慢気に今までの常識は古い、間違っていたなどいい始める人が個人ブログや掲示板によくいます。
しかしたった一つの新しい研究で定説がコロコロ変わるものではありません。新しい研究ほど正しいというわけでもありません。研究によって結果も異なります。評価もピンきりです。中には不正もあります。
そのため厚労省は世界中から多くの研究を集めて信頼性や再現性など専門家を交えて評価しながら協議するのです。
日本人の食事摂取基準(2010 年版)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ではコレステロールの目標値が男性750mg/日未満、女性600mg/日未満とされていました。
日本人の食事摂取基準(2015 年版)
日本人の食事摂取基準(2015 年版)の策定検討会報告書で、
コレステロールは低めに抑えることが望ましいと考えられるが、多くの研究では卵の摂取量と循環器系疾患の関連性が認められなかった。
コレステロールの目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったとして、日本人の食事摂取基準(2015 年版)では目標量が外されました。
つまりこれを見て、コレステロールは上限量が定められていないから、いくらとっても体に悪影響をもたらさないというような解釈をするのは危険です。
日本人の食事摂取基準(2020 年版)
日本人の食事摂取基準(2020 年版)の策定検討会報告書には、
コレステロール摂取量の変化と血中コレステロールの変化は有意な相関を示すことから、脂質異常症の重症化予防の目的からは、コレステロールは200 mg/日未満に留めることが望ましい。
ということが書かれています。
ただ、2020年版も目標量はありません。
日本人の食事摂取基準(2020 年版)の策定検討会報告書をさらに要約すると、
卵1日1個以下の摂取は循環器系疾患と関連性が見つからないとする研究が多い。明確な閾値が観察されていないためコレステロールの目標量の数値を定めることは難しい。摂取量に上限が存在しないことを保証するものではないことに強く注意するべき。
という旨が書かれています。
つまりどこまでが大丈夫なのかという境目が見えた研究がないので目標量が決められない。目標量が定められていないからと言って、いくら摂取しても問題がないと解釈してはいけません。
食べ過ぎは禁物
卵をいくら食べても大丈夫という根拠となった情報源がどこかわかりませんが、厚労省はそのようなことは一言も言っていません。
目標値が外された=いくら食べてもいい。というような解釈をしたのでしょうか?
2013年の系統的レビューやメタアナリシスをいくつか見ていくと卵摂取を循環器系疾患や糖尿病に相関性がなかったとするものもあれば、あったとするものもあります。
ただ、コホート研究でも卵を1日平均10個以上も大量に食べるような極端なグループはほとんど含まれていないため、1日平均0-3個程度のデータで摂取量と関連性がなかったと言っても上限がないと言えるわけではありません。
じゃあビルダーはどうなるか、毎日全卵10個食べるなんて普通にいる。と言われそうですが、彼らは激しい運動をしていますし、筋肉が大きいので必要な量も違います。トレーニングの習慣がない一般的な人間へすっぽり当てはめていいとは思いません。
さらに ビルダー=健康 とも限りません。心臓病など体の悪い人はいくらでもいます。
ただ、それが卵が原因なのかそれ以外の栄養摂取や、あるいはトレーニング、あるいはサプリメント、あるいはアナボリックステロイドなどの使用者であればその影響かも知れませんし、卵が直接の原因かはわかりません。
健康診断で血液検査などに異常があるとハードトレーニングのせいにしている人もいて、健康診断前だけトレーニングや食事を変えてしまう人もいる。実際その影響はあるかも知れないが、栄養面が健康に影響していても見逃してしまうリスクがあります。
ビルダーの例は一般的な人は参考にはしないほうがいいと思います。
そもそもいくら摂取しても健康に影響がないものなんて世の中にひとつも存在しません。
酸素も吸いすぎると体に悪いです。水も飲みすぎれば体に悪い。炭水化物も蛋白質も脂質も、どんなものでも大量に摂取すると体に悪い影響が出ます。
たとえ生きていくために不可欠なものでも摂り過ぎには注意が必要です。