煽り運転が社会問題となり厳罰化後も定期的にニュースになる中、先日今度は静岡市で救急車を煽る車が取り上げられた。
反対車線を走る緊急走行中の救急車の後ろからクラクションを鳴らしながらつけていき、救急車の前に割り込んで急ブレーキをしたりしていたらしい。静岡市消防局は被害届を出していないということだが、こういった危険ドライバーは法の裁きを受けさせて公道から排除していかないといつか事故を起こす。
そのニュースで取り上げられていたのが、救急車が慎重に走る理由。救急車がトロトロ走って邪魔でイライラするという声に対しての理解。つまり患者を乗せて走る救急車は速度を上げると車内の揺れが大きくなるので患者の負担を減らすためだということだ。
しかし現場へ向かう救急車もそれほど速くはない。下手をすれば普通の交通の流れより遅い。せいぜい制限速度レベルかそれより10km/h速い程度に感じる。ぶっ飛ばして走る救急車は見たことがない。
そもそもこれは適正なのか。海外の救急車はどんな感じか交えながら議論していく。
現場に向かう場合と患者を乗せた場合で変わる速度
緊急走行中の救急車は読んで字のごとく緊急を要するので安全に留意しつつも迅速に移動しなければならない。ただし速度を出せない状況もある。
患者を乗せている場合は、急加速急ブレーキ、急な右左折折、路面ギャップ通過はなるだけ慎重に行い、負傷者や患者への負担を和らげているらしい。
もしも交通事故で首の骨が折れたような負傷者は慎重に運ばなければならない。高熱など病気でも同じである。路面ギャップによる突き上げなどの衝撃は速度が速いほど大きいからだ。
日本では救急車は世界的に見て最も丁寧で安全運転をする。大体見ていると60km/hの道路でも60km/hくらいで走っている。
下の写真の福岡市室見川河川敷の30km/h制限のフラットできれいな直線道路を救急車が30-40km/hあたりでゆ~~~っくりとひたすら真っすぐ走っているのを見た事がある。
ここは一般車でも60km/hくらい(バイクだともっと速い)で流れている道路(違反速度である)。そこをサイレンを鳴らした救急車が30-40km/hほどでノロノロとまっすぐ走っていて、その後方に一般車が連なっていた。
反対岸からその様子を見ていたが、車の流れより遥かに遅く走る救急車の違和感はすごかった。現場に向かう途中か搬送中かわからなかったが、この直線道路はフラット路面で飛ばしても揺れることはない。
救急車はルール無用ではない
救急車は制限速度がないと思っている人がいるかもしれないが、制限速度はある。
法第三十九条第一項の緊急自動車が高速自動車国道の本線車道並びにこれに接する加速車線及び減速車線以外の道路を通行する場合の最高速度は、前条及び前二項の規定にかかわらず、八十キロメートル毎時とする。
出典:道路交通法施行令第12条の3
道路交通法施行令第12条の3によれば、緊急走行中の救急車の一般道の最高速度は80km/hである。(※ただし速度違反を取り締まるパトカーなどの緊急自動車は適用しない。)
救急車であれど一般道路では80km/hまでしか出せない。一般自動車の法定速度は60km/hだが、バイパスなどは早朝など時間帯によっては一般車は90km/hくらいで流れることもあり、そこを救急車が80km/hで走れば普段飛ばしている人がイライラするのだろう。
緊急走行中の救急車は一時停止も赤信号停止もしなくてよいが、だからといって交差点をガンガン突っ込んで行くことも出来ない。
緊急自動車は、法令の規定により停止しなければならない場合においても、停止することを要しない。この場合においては、他の交通に注意して徐行しなければならない。
出典:道路交通法第39条の2
首位の車が止まるという保証はなく、事故を起こしては元も子もないということだろう。交差点は救急車であれど徐行なのである。
海外の救急車は容赦なく飛ばす
患者を乗せている場合はあまり飛ばすと路面ギャップなどで車内が揺れるため慎重に行くということらしいが、現場に向かう空の救急車の場合でもやはりゆっくりな印象は強い。
海外はどういう感じかというと、海外では救急車は現場に向かう時はガンガン飛ばす。交差点でも遠慮なくこじ開けて突っ込んできます。
ハンガリー国立救急車サービスで働くドライバーのユーチューブチャンネル動画です。
ブラジルはどうか。下の動画は緊急医療サービス「SAMU 192」でドライバーとして働くR. Macárioさんのユーチューブチャンネル「Canal R. Macário」のものです。
歩道に乗り上げ、歩道上のブロックをまたいで車体底をぶつけながらも容赦なくガンガン突き進む。その国にはその国のやり方があるので強くは言えないが、日本から見れば正気の沙汰ではないレベルだ。
流石にここまで来ると恐怖さえ感じる。日本だと「危険!暴走する救急車!」と社会問題になりそうです。
その他ドイツなどを見てもやはり救急車は速い。積極的にガンガン突っ込んで走るスタイル。
ただし速ければいいというわけでもなく、海外では救急車の事故も多い。交差点に勢いよく突っ込んで一般車とぶつかり、横転する救急車の動画や写真は無限に出てくる。救急車が事故を起こしては元も子もない。安全に迅速に進むことが求められる。
サイレンが優しくて小さい
日本の救急車のピーポーピーポーという優しいサイレン(定義的にはサイレンではないが)は周辺住民の騒音問題や搬送中の患者に配慮して音を優しく小さくしてあるためとのことだが、緊急走行中の音はそういった騒音事情に屈せずにもっと荒々しくしていいと思う。
ちなみに私は怪我をして救急車に過去3回乗ったことがあるが、搬送中のサイレンの記憶が全くない。怪我の精神的なショックで音なんて耳に入らなかった。自分は大丈夫なのか、手術で治るのか、これからどう治療するのかということで頭がいっぱいだったからだ。
サイレンの目的は何だ?と考えれば周囲に知らせるため、目立つためである。より遠くの車にもサイレンが聞こえるほうがドライバーも早く気がつくので救急車も効率よく安全に移動ができる。
救急車が煽られる原因は煽る側にある
救急車は丁寧に走りすぎ、一般車や歩行者に割り込むことへ消極的すぎと書いたが、日本の救急車の安全意識は世界一高い(たまに事故はあるが)。やはり安全とのバランスを考えながら・・・、でもやはりもうすこし速く、もう少し積極的になっていい気はする。
とはいえ、緊急走行中の救急車が遅いからとイライラしてクラクションを鳴らし続けたり、故意に割り込んで急ブレーキなどの妨害をするドライバーは社会倫理を大きく逸脱した行為であり、許されるものではない。
誰でも取れる運転免許証だが、そろそろ運転適性に適さない攻撃的で感情的な人間に免許を与えないようにし、心理的な運転適性試験(筆記と面接)を導入するべきではないだろうか。免許を与えてはいけない人間が多すぎると思う。
救急車が煽られるのは救急車が悪いのではなく、救急車にイライラしてそれを行動に起こしてしまうドライバーに問題と原因があるということ。
そもそも救急車優先も、妨害運転禁止もルール。
たしかに救急車が遅くてイライラすることはあるかもしれない。
しかしほとんどのドライバーは皆我慢して救急車に協力しているんです。救急車に協力してドライバーがロスする時間なんてたかが知れている。それさえも我慢できずに感情に任せイヤがらせや妨害をする身勝手ドライバーは免許を返納するべき。